にっしん協働ルールブック   

―市民活動団体と行政の協働指針―

理 念 編
       
 2006330

日 進 市


目  次

はじめに5

第1章 日進市における市民活動の背景と位置づけ    6

 1 これまでの経緯と策定のねらい    6

 2 市民自治と市民活動団体    7

 3 ルールブックの位置づけ    8

第2章 協働の基本的な考え方    9

 1  協働の必要性    9

 2 協働の原則    10

第3章 協働の進め方    12

 1 協働の前に    12

 2 協働の実現    12

 3 協働の種類    12

第4章  実効性の確保    15

 1 実行編の策定    15

 2 ルールブックの理解促進    15

 3 合同の組織の設置    15

はじめに 

  日進市は、東部には緑豊かな丘陵地を源流とする天白川を擁する田園都市であり、一方で人口増加の著しい躍動するまちです。また、多くの大学をもつ学園都市でもあり、多様な思考や行動力を持った資源があります。

市民活動の分野においても、1992年にボランティア連絡協議会が設立され、すでにボランティア活動は長年の実績と蓄積を持っています。また、NPO法施行以来、法人格を取得する団体も増加しつつあり、そうした市民活動は、市民自治の一端を担う「新たな公共」として次のステージに向かいつつあります。

このルールブックは、そうした「成長・進化する市民活動」と「開かれ、変わり行く行政」が、同じ公共を担う主体として、それぞれの使命と役割を果たすとともに、相互の信頼関係を築きあげ、手を携えてまちづくり・まち育てをしていくための「新しい時代に向かうマニュアル」であるといえます。

第1章 日進市における市民活動の背景と位置づけ

1 これまでの経緯と策定のねらい

日進市ではこれまで、市民主体のまちづくりを推進していくため、市民参加による事業の展開、そして市民活動の支援をしてきました。

平成13年度、行政による市民活動支援のあり方を提言いただくため、市民活動団体などのみなさんによる「市民活動推進検討会議」を設置し、平成14年3月「日進市市民活動推進に関する提言書 」をいただきました。

また、愛知県は、全国に先駆けて、平成16年度、市民団体や学識経験者などによる「NPOと行政の協働のあり方検討会議」を設置し、「あいち協働のルールブック」を策定し、同年8月、473の市民活動団体と知事との間でNPOと愛知県の協働推進に向けた共同声明と署名式を行いました。

日進市ではこれらの動きを受け、愛知県内の自治体として最初に、この「にっしん協働のルールブック」(以下「ルールブック」という)の策定と、これに基づく、平成18年4月の共同声明署名を目指し、平成17年度、日進市の市民団体の連合組織である「日進市民グループゆるやかネットワーク」に「ルールブック素案作成」を委託し、準備を進めてきました。

また、平成17年11月には、市民活動の新たなプラットホームとしての、「にぎわい交流館」が開館し、利用者の増加とともに、登録団体も着実に増えています。

日進市においては現在、自治体の憲法と言われる「自治基本条例」の策定を進めています。テーマ型コミュニティーとしてのNPO、そして自治組織である地縁コミュニティーは、市民自治社会の実現のための両輪であり、このルールブックは、市民自治の実現のために大きな役割を担うものとなります。

2 市民自治と市民活動団体

「課題がなければ、組織はない」「動機がなければ、活動はない」といわれるように、市民活動団体と行政はともに、主権者である市民の生活課題、社会的課題を解決するために存在します。したがって、市民にとって課題がない場合は、市民活動団体も行政も、そもそも存在する理由はありません。

市民の生活課題、社会的課題は、補完性の原則に基づき解決していくべきことです。

この中で、市民が個人や家庭レベルで解決ができない課題を、一定のコミュニティによって解決しようとするときに、自治という手法が生まれます。これが公共の始点です。

そういう意味で、自治会などの地縁コミュニティや、テーマ型コミュニティである市民活動団体は、市民が自ら課題を解決しようとする動機に基づく、自治の組織形態であるといえます。

 しかし、こうしたコミュニティの形態では解決できないこと、また、非効率なことについて、市民に一番近い政府(ローカルガバメント)としての自治体も公共を担い、一定の役割を果たすことになります。

 これまでの中央集権的な社会の中では、国・県・市町村といった自治体が、階層的に公共を担い、市民はどちらかと言えばその行政サービスを享受する立場であったと言えます。そういう意味で、これまで、市民にとっては、公共イコール行政というイメージが定着していました。

しかしながら、地方分権社会への移行の中で、「市民自治の実現」が地方自治体の重要な課題となり、その一翼を担う市民活動団体は、主権者である市民が組織的に公共・公益的活動を行うという意味で、「新たな公共」といわれるようになりました。

このルールブックは、その市民自治のひとつの主体である「NPO(市民活動団体)」と「行政」とが、同じ公共を担う組織として、必要に応じて協働する際に必要な原則や手続きを共有し、定めるものです。

3 ルールブックの位置づけ

このルールブックの基本的な位置づけは次のとおりとします。

・このルールブックにおける「協働」とは、市民活動団体と行政がそれぞれの役割・機能・特性を活かし、相互協力・相互支援(パートナーシップ)や共同(コラボレーション)という形態で連携し、市民の生活課題や社会的課題に取り組むことをいいます。

・このルールブックは、市民活動団体と行政が「協働」をする場合に、必要な約束事です。

・このルールブックは、ひとつの自治の主体としての「市民活動団体」の社会的使命(ミッション)と具体的な活動に沿い、行政がそのサポートをするための実質的な環境整備の一環とします。

・このルールブックは、その理念を第一編とし、この理念編をもとに、これに賛同する市民団体と行政が、「協働ルール」採択の共同声明と共同署名、調印式を行います。

・平成18年度以降は、理念編に基づいた具体的な手法やルールをまとめた実務編を策定します。

・市民活動団体と行政の協働の歴史は始まったばかりであることから、このルールブックは、常に時代の変化に対応し、見直しを図ります。

第2章 協働の基本的な考え方

 協働の必要性

(1)公共サービスの向上

これまで公共サービスは、もっぱら行政が担うものと考えられてきました。しかし、多様化する市民ニーズに対し、法令や予算に基づき公平・均一的なサービス提供を基本とする行政では、十分に対応することが困難になってきました。

一方、市民活動団体は、多様性や柔軟性、先駆性、専門性などの特性を活かし、個別的なニーズや新しい社会的課題への対応など多様な公共サービスを提供することができ、新しい公益の担い手として期待されています。この市民活動団体と行政が協働することによって、お互いが単独では成しえない相乗効果が期待され、より市民ニーズに沿った多様な公共サービスの提供が可能となります。

(2)市民の社会参加、自己実現

地域には、様々な知識や経験、能力を持った人材が蓄積しており、生きがいや仲間づくりの絶好の機会として市民活動に参加する人々が増えています。市民活動や協働事業の発展によって、市民の社会参加や自己実現の機会を広げることができ、さらに新たな雇用機会を創出することも期待できます。 

(3)自立的な地域社会の活性化

市民が市民活動や協働事業を通じて、よりよい地域づくりをめざして自発的に地域課題の解決に関わることで、自治意識や主体的なまちづくりへの参加意識を高めることができます。また、多くの市民が市民活動に参加することにより、地域における自立的・自主的な社会的課題解決能力がより一層高まり、地域社会の活力が増すことにつながります。

(4)行政の効率化と意識改革につながる

これまで、行政が直接実施していた事業を、市民活動団体との協働により実施することで、行政の効率化・スリム化を図ることができます。また、市民団体は、行政とは異なる価値観や行動原理を持っているため行政と協働で事業に取り組むことで、行政の文化や体質を見直すきっかけとなり、組織及び職員個人の意識改革につながります。

2 協働の原則

 市民活動団体は、自治のひとつの主体であり、公共を担う市民活動団体は、行政の下請けではありません。したがって、より市民活動団体の柔軟性や専門性が発揮され、協働の効果を上げるために、市民活動団体と行政はお互いの使命や事業内容を十分に理解しなければなりません。ここでは、市民活動団体と行政が、パートナーとなり、協働を成功に導くために、守らなければならない原則を示します。

(1) 対等の原則

協働を進める前提として、市民活動団体と行政は、お互いに上下の関係ではなく、ともに自治の主体として対等なパートナーであることを理解しなければいけません。

また、協働を進めるにあたり、行政は、市民活動が自立的・自主的に行われていることを理解し、その主体性を尊重し、その特性を活かした柔軟な取り組みを支援しなければなりません。

特に行政は、市民活動団体と比較して、財政的、組織的に大きいことから、自治の主体である市民活動団体の活動の主旨を尊重し、十分な配慮をする必要があります。

(2) 相互理解の原則

市民活動団体と行政は「言語が異なる」、「文化が異なる」と言われるほど、価値観や行動原理が異なります。協働を成功させるためには、お互いの立場や特性、長所・短所を理解し、尊重し合う必要があります。

行政は市民活動団体の“ 想い ”を受け止めるとともに、市民活動団体は、行政の仕組みを理解しなければなりません。また、そのために、日頃から積極的に話し合いの場を持ち、相互理解を深めることが必要です。

(3) 目的・目標共有の原則

市民活動団体と行政は、協働しようとする事業の目的と目標を相互に共有することで、それぞれが主体的に取り組むべき役割や一体となって行うべき協働の内容等を明確にすることができ、円滑な取り組みを進めることが可能になります。

協働とは、協働すること自体が目的ではなく、多様化する市民ニーズや新たな社会的課題に対応するための一つの手段であるということであることを基本とします。

(4) 公開の原則

協働事業に関する情報は、事業の企画や協働相手の選定の段階から、事業の実施、事業実施後の評価に至るまで、原則すべて公開として透明性を確保し、社会的な理解を得るように努める必要があります。また、多くの市民活動団体の協働への参画機会を広く確保する観点からも、協働のプロセスを積極的に公開するよう努めます。

(5) 時限性の原則

市民活動団体と行政は、それぞれの使命を大切にし、相互に依存しないように協働をします。そのためにも事業実施前に、事業期間や事業の目標達成によって関係を終了することを明確にしておく必要があります。また、事業実施後は必ず事業のふりかえりを行い、協働の継続や協働相手の適否も含めて検証を行う必要があります。

第3章 協働の進め方

 協働の前に

市民自治とは、主権者である市民が、自らの生活課題やより広い社会課題を解決していくための取り組みです。そういった意味で、社会サービスを市民活動団体が提供する場合において、まず、協働が必要であるか、協働することでより効果を高められるかを慎重に検討する必要があります。

2 協働の実現

(1) 協働事例の研究

  市民活動団体と行政は、さまざまな協働に関する先進事例の研究を積極的に行います。

(2) 市民活動団体と行政との交流

市民活動団体と行政は、日常的に意見交換や情報交換をすることにより、相互理解を深めるとともに、協働事業の可能性を探ります。

市民活動団体と行政は、企画のアイデア段階から市民活動団体の参加を進めることで、後の事業実施や、その実効性を高めることができます。

(3)相互の協働提案

市民活動団体および行政は、お互いの協働の提案について、前向きに受け止め、検討します。

3 協働の種類

協働は、支援・協力(パートナーシップ)と共同(コラボレーション)に分類します。

支援・協力とは、市民活動団体と行政が共有する目的の達成のために、必要に応じて、相互に、または一方的に、それぞれの使命・特性を生かした支援や協力をすることをいいます。これには、情報支援から、さまざまな形態の支援や協力、契約関係を持つ協働委託・協定の締結などがあります。また、共同とは、市民活動団体と行政が共有する目的の達成のために、必要に応じて、一体となって取り組むもので、合同の組織づくりや合同のワークショップなどをいいます。

1)情報の共有

 市民活動団体と行政は、それぞれが持つ情報を積極的に開示するとともに、相互に専門的知識・技術、及び経験に基づくノウハウの提供、相談、意見交換などを行う。

(2)事業支援

 市民活動団体と行政は、相互に、または一方的に、事業の提案を行うとともに、事業の企画立案、実施・運営、評価などの過程において、さまざまな形で協働すること。

3)名義後援

 市民活動団体が主催する事業に対して、行政が「後援・協力」などの名義を連ねること。

4)経済的支援

 行政が市民活動団体に対して、助成金、補助金、施設利用の減免などの経済的・資金的支援を行うこと。

5)物理的支援

 市民活動団体と行政が、相互に、または一方的に、物品・資材、会議室、備品貸与を行うこと。

6)人的支援

 市民活動団体と行政が、相互に、または一方的に、必要な人材を派遣すること。または、労力を提供すること。

7)協定・協約

  施策、計画、事務、事業について市民活動団体と行政で共通の目的を定め、その達成のために互いの領域における事業の実施をパートナーシップ協定などに基づいて行うこと。

8)協働委託

従来の民間事業者への業務委託とは異なり、市民活動団体の主体性・自主性を尊重し、またその専門性、機動性を生かし、対等な関係で、行政の事務・事業を市民活動団体に委託すること(交付金的な性格のもの)。

<注>交付金とは、本来行政が行うべき事務を、法令、条例等により、団体等に委託する場合において、当該事務処理の報償として支出するもの。補助金とは、特定の事業、活動を助長・奨励するために公益上の必要性を認めた場合に、対価なくして支出するもの。

9)共催

イベントなどの事業を市民活動団体と行政が、対等の立場で協議し、相互の特性を活かす役割分担、経費負担などを行い、ともに事業主体となって、組織を分けたまま実施するもの。

10)実行委員会・協議会など

市民活動団体と行政などで構成された「実行委員会」や「協議会」が事業主体となって、一つの事業を行うもの。

11)その他

市民活動団体と行政の協働という新しい取り組みは、常に進化の中にあり、上記以外にもさまざまな関係性を持った協働の可能性があることを念頭に、既存の形態にとどまらず、事業目的や内容などに合わせて、柔軟に対応していきます。

また、行政は、市民自治社会の実現のために、新たな公共の担い手としての市民活動団体に対して、育成・支援を積極的に行います。

第4章 実効性の確保

  市民活動団体と行政は、このルールブックに実効性を持たせるために必要な次の項目を協働で行うものとします。

1 実行編の策定

市民活動団体と行政は、これに必要な具体的な手法や手続き等を協働して策定もしく改定するものとします。

2 ルールブックの理解促進

市民活動団体と行政は、ルールブックについて広く市民と行政職員の理解を得るために、よりわかりやすい解説書を作成し、啓発・周知を行います。

3 合同の組織の設置

 市民活動団体と行政は、このルールブックに実効性を持たせるために、合同の組織を設置し、ルールブックが適切に運用されているかを分析・評価をするとともに、見直しを行います。

テキスト ボックス: にっしん協働ルールブック
―市民活動団体と行政の協働指針―
理 念 編

日 進 市
日進市民グループゆるやかネットワーク
2006年3月30日 H